屏風の頭 

         2570m (長野)

涸沢からのつづき。

2009年10月3日 霧雨のち晴れ

沢渡P5:00〜(タクシー)〜上高地5:30〜明神・徳沢・横尾8:30〜涸沢12:00(テント設営)〜前穂高岳5・6のコルガラ場まで散策(テント泊)

ヒュッテの屋根上で有名な写真家S旗さん!山の雑誌でよくお目にかかるので一目でわかった。シャッターを切るその速さに驚く。
ヒュッテ裏から降りて池の横を通り抜ける。池は黄色!黄葉した南稜が映って逆さ北穂高岳。踏み跡はしっかりしていた。

岩に赤で「5・6のコル」の案内。この辺りのナナカマドが鮮やか。足元は崩れやすいガラガラしたガラ場。そこから左に折れ、山肌をトラバースして行くと、コルの岩らしいものが目に入る。まだ相当かかりそうだ。

奥穂の影が伸びてきた。たぶんこの辺りが涸沢で一番早く日が沈むのだろう。振り返ると北穂の峰には光が溢れている。Iさんは今頃山頂だろうか?今日の北尾根下見はここまで。



おでんで温まり、テントに戻る。日が沈んで、涸沢の空一面にうろこ雲。ゆっくりゆっくり流れている。テントから顔だけ出してずっと空を見上げる。蒼い空に吸い込まれていくような雲になったようなふわふわした気分。白いひつじは淡いピンク色に染まっていった。

その後、屏風の上にまんまるお月さま。今日は中秋の名月。涸沢でお月見!なんて贅沢なんでしょう。月明かりで空が明るいけど・・・。濃紺の空にオリオンと星雲が瞬いていた。


2009年10月4日 快晴

涸沢6:00〜(パノラマコース)〜屏風のコル7:20〜屏風の耳7:50〜屏風の頭(8:05〜8:25)〜屏風の耳8:40〜コル9:00〜新村橋11:00〜徳沢11:15〜明神12:10〜上高地13:00〜(バス)〜沢渡P13:30〜沢渡温泉14:30〜高山〜羽島〜自宅18:00

涸沢の夜明け。モルゲンロートに染まる穂高の峰々を仰ぐ。厳かな瞬間だ。
赤く見えるのはほんの数分の限られた時間・・・。Iさんは足の向くまま、ザイテンから岳沢を仙人のように歩くとか。我々は二回目のパノラマコースへ。


テントのフライシートをはがすと、内側に薄氷が張っていた。グッと冷え込んだらしい。
ヒュッテ横から降る道には、鎖場のトラバースが何箇所もある。槍の穂先が見え始めた!
昨夜10時に釜トンネルを歩き始めたという男性二人が現れた。寝ていないの?めちゃくちゃタフ!

屏風のコルに出ると、朝日に輝く真っ赤なナナカマド。ここは夜と日中の温度差が相当ありそう・・・。


数年前は余裕がなかったが、今日は屏風の頭まで行ってみよう。氷が張った池塘が二つ。賽の河原は通過して、屏風の耳へ。

目が痛いほどの真っ赤なナナカマドを越えると、なーんと前穂の東壁から槍ヶ岳までがドーンと目に飛び込んできた。三角点がある屏風の耳だ。


前方をのぞむと、屏風の頭に人がいる。あそこまで行けるかな?スパッと切れ落ちている涸沢側は危険だから、余り歩かれていないハイマツ道をくぐりぬける。真っ白なシラタマノキを足元に見て登っていくと霜柱!ザクザク踏んで冬気分。

屏風の頭到着。
なんて世界!目の前に涸沢と穂高岳連峰から大キレット、南岳から槍ヶ岳。黒い翼のような北鎌尾根。野口五郎岳か?も見える。西岳、大天井から常念、長い蝶ケ岳、富士山、南アルプス・・・。周囲360度の山すべてが微笑んでいる。
この山の連なりに出会えた喜びをどう表現したらいいのだろう。今、私の目の前に日本一の山並みが堂々と靜かにあるのだ。美しすぎて、大きすぎて、圧倒されて息苦しくなるほど心揺さぶられる・・・。
名前どおりの見事なパノラマに身も心も奪われ、夢の中にいる気分。



夜明けからずっとここに見えた方は(3時間ほどかな?)まだ写真を撮り続けている。「降りる気分にならないけど降りようかな。」と名残惜しそう。何時間でもいたいけど我々も一緒に降りよう。耳まではどんどん人が来るがこちらの頭まで来たのは4人だけだった。

今は屏風の岩登りをする人はほとんどいない様だけど、ここに到達したらきっと身震いするほどの達成感を味わうことだろう。

「魂を奪われた抜け殻」?が、賽の河原へ戻る。朝、張っていた池塘の氷は融けていた。「抜け殻」は夢から現実に引き戻された・・・。



コルから奥又の谷へ降ろう。
記憶になかったが、途中には険しい岩歩きがあった。ストックを使ってなぜか危なっかしい女性、道を譲る余裕もなく足がもつれて転んだ。山によっては滑落するよ。はらはらしていると「降りはストックを使わないように。」と後ろの山男さんがきっぱり言い切って通り過ぎた。どんな時も、降りでは細心の注意が必要だ。

青空に黒く美しい前穂高が見えてきた。格好いい!奥又白池はどの辺りだろうか?と思っていたら岩に「オクマタ」の案内。踏み跡がなくガラガラした悪場らしいが次はここから北尾根へ行きたい。

梓川の支流に沿って降り、新村橋に到着。


はらはらと枯れ葉が舞い落ちて、秋の風情漂う徳沢についた。私はここが好き。紅葉が昨日より進んだ感じだ。色づいた樹の枝越しに再び氷壁の舞台の岩峰を仰ぐ。


ホオバの黄葉に見惚れて、宝石のようなガマズミの真っ赤な実に魅せられて上高地へ戻る。


澄み切った青空とエメラルドグリーンの梓川。彼方に穂高岳連峰。山はただ秋の装いで優しく美しく靜かだった。
念願かなって、錦色の涸沢に会えた幸せな山旅でした・・・。

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