宝剣岳
      2931m
(長野)


2005年2月27日 快晴 Iさん 夫と3人

自宅5:15〜(中央道)〜駒ヶ根7:00〜菅の台バスセンター8:12発(始発)〜(バス)〜しらび平8:40〜9:00発(始発)〜(ロープウエイ)〜千畳敷駅9:20〜乗越12:00〜宝剣岳13:30〜千畳敷カール〜千畳敷駅14:30〜14:55発〜(ロープウエイ)〜しらび平〜(バス)〜菅の台バスセンター15:40〜コマクサの湯(15:45〜16:20)〜駒ヶ根16:40〜(中央道)〜自宅19:00

バス       ¥800×2
ロープウエイ  ¥2200(往復)
コマクサの湯  ¥500


雲ひとつない青空。駒ヶ根手前から左手に中央アルプスの特別白い峰が目に入る。菅の台バスセンターに車を置く。(無料)ここからも宝剣岳を望む。8:12分の始発。
バスはチェーンをつけてジャラジャラ走る。道は急カーブが多く白く凍っている。
しらび平でロープウエイに乗る。始発9:00 ロープウエイの下を見下ろすと雪の上に座っているカモシカが目に入った。気温マイナス10度。千畳敷駅からカールに下りる。
白い美しい宝剣岳が紺碧の空に力強くそびえる。この空の色はどこから来るのだろう。なぜこんなに濃い青なんだろう。青というより蒼、いや藍色。そして東に白い南アルプスの峰々。今私は黒い岩と白い雪と藍色の空に包み込まれてここにいる。この美しい空間にいられる幸せ。超気持ちいい。
カールではあちこちで雪崩救助訓練。はじめのパーテーは極楽平から三の沢へ向かった。次の人達は千畳敷から正規のルートを行った。
我々はカールでわかんをつけた。雪崩の危険があるとかで前岳の稜線に向って登りだす。道なき道を・・・
快晴だけどIさんは赤旗を10本ほど立てていく。中ほどのダケカンバの林でアイゼンに替える。白い地吹雪が舞っていた。下の方は藤内沢のつもりで行けたが高度感を感じる頃アイスバーン状態になった。こんな所で滑落したら止まれない。そう思うと怖くなってきた。分厚い氷は思いきり蹴らないとアイゼンがささらないし滑る。片足をフラットにもう一方を前爪で、ピッケルを強く刺し、よつんばいになって登る。藤内沢でもよく練習したのに・・・
強風が吹いてくるとさらに怖くて雪面にへばりついた。
下を見ると怖いから見ないで何も考えずに行こう。ただ一歩ずつ。確かな一歩で。行くしかなかった。戻るのも怖かった・・・
稜線に近づくとハイマツの尾根になった。
ここは氷を蹴るとしっかりしたステップが出来た。



Iさんのステップを踏んでいくと怖さが薄らいだ。岩が見えてきて稜線に出た。やっと氷との戦いが終わった。私には長い苦しい三時間だった。初めてのアイスクライミング体験。それも道なき道の尾根で・・・
前岳からの稜線は雪と氷と風の創り出した異次元の世界。人が踏み入ってはいけないような神聖な領域だった。ただ美しい。前方に逞しい宝剣岳。
あちこちにとてつもなく大きい風紋(シュカブラ)、その間にぴかぴかに光った大きい氷が続いている。
たしか去年宝剣岳のシュカブラの写真をSさんにメールで送ってもらった。岳人で賞もとられたようだった。まさか自分の目で宝剣岳のシュカブラを見る事ができるなんて思ってもいなかった。
本物の桁外れに大きい風紋を前に身震いするほどの感動。雪庇も鋭い。その向こうに中岳や木曽駒ケ岳の白い峰がなだらかで美しい。


宝剣山荘から少し宝剣岳へ行ってみる。アイスバーンは力を入れて蹴らないとすべり落ちる。
肩から山頂直下のピカピカに光る氷が目に入る。ザイルで体をつなげた四人のパーテイがそちらに向った。なんども滑り落ちたりしてルートを見つけ登って行った。
西に山頂部分が真白い御嶽山が格好良い。左すその御岳ロープスキー場は壮大なスケールだった。東には南アルプスの白い峰が続いている。その中ほどに富士山。周囲の美しい峰々を堪能できる喜び。
とても私に雪の宝剣岳に登れる力があるとは思っていなかった。だけど今自分の足で宝剣岳の肩に立っている。
そして美しい冬の御嶽山や南アルプスの山並みをこの目で見てここにいる。夢の様だ。
いつもながらの頭痛にも耐えて気分は最高。


最終のロ−プウエイに間に合うよう正規のルートで千畳敷に下りることにする。それはスケールのでかい垂直の雪壁だった。ここを夏に登った事もなくいきなりのこの迫力。かかとで雪を蹴るように言われるがこんな高い壁では怖くて出来ない。
高所恐怖症の私は腰が引ける。足がすくむ。体が硬直する。ザイルをつけてもらう。それでも怖い。落ちたらどこまでも止まれないと思うと体が全く言う事を利かない。
朝の前岳の登りからの緊張感と恐怖感がここでイッキに爆発。子供のようにわんわん泣き出してしまった。なだめられてもすかされても止まらない。
怖くても這ってでも下りなきゃ帰れないし・・・
泣きながら一歩ずつ下りる。子供じゃないんだから甘えてられない。
すると雪の状態が少しずつ変わってくるのがなんとなくわかる。ふわふわで滑りやすかった雪が固く締まってきた。この雪だとアイゼンが刺さる感じで安心できた。「ああよかった。」かかとで歩く感じで行くと背筋も伸びてきた。傾斜もこころもち緩やかになった。徐々に恐怖感が去り涙もどこかに吹き飛んだ。
カール中ほどに雪崩の跡らしく雪が盛り上がっている。ここは急いで通過する。


カールから朝登って行った足跡が赤旗と共に見えた。「あの急斜面を行ったの?」と見上げる。斜度はどれくらいだろう。35度くらいかな?垂直に思えたけど・・・
下から見ると全くの直登だった。怖かったのも当然。今となっては自分のレベル以上の体験ができて良かった。
無事けがもなく千畳敷駅に辿り着いた。やれやれ・・・
泣きながら下った先ほどの雪壁を見上げる。
宝剣岳は午後の光の中で朝とは又違った落ち着いた風格で聳えていた。
美しい白い峰、宝剣岳。滑落の恐怖に耐えて必死で氷を登り、雪壁の下りも怖くておお泣きした今日の私。
スケールの大きさと高度感に圧倒され何も出来なくなる自分がはがゆい。もっと強くなりたい・・・
この経験を踏まえ私は又一歩前へ・・・


トップメニューへ
inserted by FC2 system