伊吹山
    1377m
(滋賀)


2006年1月15日 快晴

三之宮神社7:45〜高原ホテル9:45〜伊吹山山頂(11:25〜12:10)〜神社13:50〜伊吹薬草の里



関ケ原まで来ると、道路沿いの雪の量に驚く。やり場に困っているほど家の周りに積まれている。屋根にはまだ1m残っているし・・・。数年、冬の伊吹山に来たけどこの大雪は初めて。山はきっとすごいことになっているだろう。
伊吹山が見えてきた。みるみる白い峰が淡いピンク色に染まる。伊吹山のモルゲンロート。綺麗。
神社前に車を置く。周りの民宿の軒にはレンタルスキーなどが並んでいる。
今まで冬はゴンドラに乗ったけど今日はここから歩く。昨日の雨で少し雪が融けて三月のような陽気。凍ってない。水分が多い雪ではまり込む。
一合目スキー場。
リフトは椅子が取り外され動いてない。H町のIさんはここからスノーシュー。夫はワカン。私はそのままつぼ足。
スノーシューははまり込まなくて楽そう。緩斜面の登りはいいが急斜面はちょっと大変みたい。そんな時はかかとを上げるような金具もついている。
先行者の一人もスノーシュー。速い。
私がはまり込んでいるのを見かねた人達がワカンをつけるように言ってくる。
つぼ足がいいのに・・・。仕方がないのでつける。この金属製ワカンは夫々の幅が広い。その間隔があるので蟹股で歩かなければならない。いつものように歩いているとワカンのパイプが重なって(踏んで)よく転ぶ。歩くのがよけい遅くなってとても疲れる。だから苦手。
もう少し小さめの軽い昔ながらの木製ワカンがいいな。いつか友人のを借りたけど軽快だった。
喘ぎながらついて行くと、「カモシカ。」と言っている。一頭だけじっとこちらを見ている。急な斜面をあっという間にかけ登って行った。雪が多いので食料がないのかな?
やっと高原ホテル前に着く。ここまで二時間、先が思いやられる。日曜というのにスキーやボードする人が少ない。リフトもガラガラ。
五合目手前でワカンをアイゼンに替える。本当はつぼ足がいいのだけど・・・。ここでスノーシューの若者がささっと前に出る。身軽。
突然目の前を何かが横切った。野うさぎ。ピョンピョン飛び跳ねて可愛い。茶色の後姿だけ見せてあっという間に通り過ぎた。
積雪量が多くて小屋は雪に埋もれていた。二メートル以上あるだろう。雪はまだグサグサ。はまり込まないようにできるだけトレースを行く。
避難小屋も雪の下。
振り向けば随分高度が上がっている。目の前の霊仙岳や藤原岳が蒼く大きい。見下ろすと雪に被われた建物や田んぼが白い。ただ蒼と白だけの大地が美しい。
よく見ると白い雪原の中に豆粒の様な登山者が点々と・・・。眼前の大地からみれば人間なんて本当にちっぽけな存在。


今日は天気がいいので不安なく歩ける。どこでも登山道なので真平らな雪の原を直登。こんなに雪が多くて天気に恵まれた冬の伊吹山は初めてだ。いつ来てもガスッていたので起伏のない平原で迷うと怖いと思っていた。
天気がいいと気分もいい。目の前にあるのは群青色の空と雪。綺麗。
見ると先行スノーシューの人はアイゼンに替えていた。「急斜面は歩きにくい。」と言っている。
Iさんは小屋から赤旗を立てて行く。その旗が白い雪面に翻る。
山頂直下、険しい左斜面が目に入る。そこへボードの若者二人。滑らかに雪面を横切って鮮やかな落書き。それは蒼い琵琶湖を背景に一幅の画のよう。
このあたりから雪が固く締まってきた。アイゼンの前爪を蹴りこんで行く。キックステップ。忘れていた感覚を思い出す。今季初めてだ。気持ちいい固い雪の感触。
山頂直前の斜面は垂直に聳えていた。その様子は過去数回冬に来て私が知っている伊吹山ではなかった。積雪量が多いとこんなに違うものかと驚く。
丸で春山穂高岳のあのあずき沢から白出のコルへ登る気分だった。何もない雪斜面の急登。そしてそれを上りきると見事な大雪原が広がっていた。夏のお花畑遊歩道は影も形もない。山頂の小屋はといえば屋根まで雪に埋もれている。



天気は快晴。風もほとんどない。一月の伊吹山頂にいるとはとても思えない。信じられない。
ガリガリした雪をアイゼンで感じ、丸みを帯びた雪原をどこでも歩いて日本武尊像前まで進む。
とそこには白い峰々が堂々と豪華な屏風のように広がっていた。息を呑むような360度の白い大パノラマだ。白山、穂高岳、乗鞍岳、御嶽山、中央アルプスなどが紺碧の空にこの上なく白い。冬空に凛と聳えている姿がなんと神々しいこと。
その迫力に魅了され圧倒され放心状態。手を伸ばせばそこにある山々に届きそうで、吸い込まれそうで・・・。美しすぎる白い峰々。
対照的に琵琶湖や目の前の霊仙山はただ蒼い。
さすがに白山や穂高岳からの風はきつくて息が出来ないほど。でも立っていられないようなことはなく頬も痛くない。心地いい。全身でアルプスの風を感じる。これは最高だ。まるで春山穂高岳。



しばし我を忘れて山に見惚れていたらしい。「寒いでしょう。」とスキー板を背負った人に声をかけられ、薄手フリースのままだったことに気づく。ダウンの中着とカッパの上着を羽織るが寒さをほとんど感じない。高揚した気分のせいだけでなく実際春のように暖か。
高原ホテル前からなんと二時間弱で到着。下からホテル前までかかった時間とほぼ同じ。
五時間近くかかると思ったが・・・。山頂直前の雪が固く締まっていたことと、風もなく好天に恵まれたことが後半楽だった要因。
ボードを背負った若者、Iさんのように赤旗を持った人、スキーで滑り降りる夫婦などそれぞれが今日のこの素晴らしい伊吹山頂を堪能している。
そして私は今、この陽だまりでゆったりと熱い紅茶を飲んでいる。春山気分で白い峰を楽しみながら。そしてここにいられる幸せ感に包まれる。なんと贅沢なひととき。


下りは頂上直下急斜面を降りる。夫は既にここ山頂から五合目の小屋あたりまで一気に滑り降りて行った。
怖がりの私にそんな事が出来るわけもなく、ここを下るにはやはり勇気がいる。それは宝剣の肩から千畳敷カールへの下りか北穂沢から涸沢への下りと同じだった。前かがみでも後そらしでもなくただドーンと膝に体重をかける。踏跡でなくトレースのない雪面でそれを感じる。
慣れて楽しくなってきた頃、緩斜面になったのでそこからは滑り降りる。広い空と白い大地の中を、風のように子供のように・・・。それは雪と空と大地だけを感じる瞬間だった。あっという間に避難小屋へ。
Iさんは赤旗を回収しながら降りた。下りにスノーシューを使っている人は見かけなかった。
春の様な陽射しに雪は融け始めている。気温が高すぎてスキー場の雪はベタベタ。そして暑い。
下に降りるほど歩きにくい。右に左に何度も嵌りこむそのベタ雪を楽しんで車に戻った。

朝は雪崩が怖くて少し警戒した。が行ってみると中腹より上は雪が締まって歩きやすい。そして山頂直前の急登と山頂からの見事な眺望に魅せられ、白い峰々に心が晴れ晴れした。この景色を見るためにここまで登って来たのかなて思う。
長い山裾は林道歩きのようであまり好きになれないけど、鍛えるには丁度いい。暖かで穏やかでそして清々しく、まるで春と冬が同居しているような今日の伊吹山だった。
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