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三合目。
バイオトイレが雪に埋もれている。リフト終点手前の林道から右に入る。この辺りで一瞬朝日がさしこんで、晴れるのかと期待した。
夏道と離れて直登していく。赤旗を立てる。雪は重い。天気は回復しない。右も左もさっぱりわからない。ホワイトアウトだ。よく山スキーヤーが方向を見失って遭難するこの山。景色がないこんな日は起伏がない山は危険だ。方向がわからない。
雪が深くなるし、トレースもないのでどこでもはまり込んだりする。もう降りたい。こんな天候では不安でちっとも楽しくない。相方に「降りようよ。」と行っても聞き入れる気配がない。
「こんな天候ぐらい。」「せっかく来たんだから。」「もう少しだから。」そう思って人間は間違いを犯してきたのだろう。遭難するのだろう。
下からボーダーが登って来た。追い越したり追い越されたりしながら進む。通ったことのない直登道なのでどの辺りにいるのかもさっぱりわからず、不安が募る・・・。
微かに稜線らしきものが見えてきた。9合目の看板が埋もれている。山頂方向は何も見えない。もうここで降りればいいのにまだ行くという。この悪天で進むという気持ちがまったくわからない。何かにとりつかれたように「前へ行く」人二人・・・。無謀としかいいようがない。泣きを入れても聞き入れてもらえないので仕方がない、ついていこう・・・。
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スノーシューをつける。赤旗を細かく立ててくれるように言う。そうでなかったら不安で進めない。
視界が何もない霧の中を祠へ辿りついた。そこにはとてつもなくでかいエビノシッポがびっしり。屋根のテッペンまで。恐ろしいほどの風が吹き荒れたようだ。
中に入って御参り。テルモスの熱いお茶を飲んでパンを齧る。一息ついても外は晴れる気配がない。こんなところにゆっくりしていられない。早く降りよう。
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赤旗目指して降り始める。なかったらどこをどう降りたらいいのだろう。
山頂の雪庇がでかい。けれど空も雪も白いのでなにがなんだかわからない。迫力がない。
ふと下から、女性が「この赤旗があったのでここまで来れました。もう回収するんですか?」と話してきた。この悪天に一人で登って来たの?びっくりするよ。
「では一緒に降ります。どうしようかと思ったけど、目の前にトレースと赤旗があったので。旗を回収する為、必ずこの人はここを降りるだろうから、その時一緒に降りようと思ってきました。」という。山をやるにはそれくらいの心臓でなきゃね。折角赤旗と出会ったんだから。怖がりで気の小さい私はちょっと見習わないと・・・。
あきらめたと思っていた地下足袋さんも到着した。足、冷たいのにがんばったね!
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山頂直下を降る。
急斜面なのでツボ足で。踵を雪に入れて駆け下る。時々腰の辺りまではまりこむ。
一緒に降りた彼女の足取りが余りにもしっかりしてついていけない。山での生活もきちんと身につけている。我々とはレベルが違いすぎ。話しているとC種アルパインクラブ所属の方だった。正月にも南アルプス塩見岳を歩いたとか・・・。
もう私は疲れてしまった。ゆっくり自分のペースで歩こう。緩斜面になったのでスノーシューをつける。スノーシューはトレースのない雪面をザクザク歩くのに適している。はまりこまずに楽だ。
ガスっているのに、下からボードを背負った人などが登って来る。「赤旗、助かりました。」と言う人が何人も。もうトレースがしっかりできたからいいね。Iさんの旗はみんなの為に役立った。
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雪で壊れた避難小屋が見える。我々は小屋の随分右手から直登したようだ。小雪が舞ってきた。山頂はガスッて全く見えない。早く行動して正解。トレースが消えないようにと他人のことを心配する。
リフト終点手前から左へ、一面の雪野原を駆け下る。いっぱい落書きして超気持ちいい。ここでIさんの足がつったので、芍薬湯と塩あめで一休み。
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スノーシューをはずしツボ足で歩く。一番下のゲレンデで硬い雪面に滑って一回転。雪だからなんともないよ。高原ホテルもよく見えないほど暗くなってきた・・・。
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神社へはゴンドラ下から降る。ここはモーグルの上村愛子が降りるほどの急斜面だった。C種さんもでんぐり返し。
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駐車場はまだ凍っていてここでも転ぶ人がいた。伊吹の雪に遊んでもらって車に帰りつく。「あー、無事でよかった!」
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伊吹薬草の湯。¥400 薬草の香りに包まれあったまる。
大雪伊吹山、ホワイトアウト体験。よく歩きました。自分で自分を誉めよう。年末に蒲田富士から奥穂高岳へ向った人も、きっとこんな雪の中を行ったのだろう。そして今も帰らない・・・。
雪山は楽しいけど無謀はよくないよ。今度は晴れた日に、白い伊吹山を歩きたい!
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