北穂高岳・涸沢岳・涸沢   
     3106m 
  3110m  (長野、岐阜)

KITAHODAKADAKE

2005年8月14日 晴れのち雨

北穂高岳(11:50〜12:10)〜涸沢岳(14:15〜14:20)〜穂高岳山荘14:35

ここで生憎ガスが掛かってきた。雨が降るかも・・・。
オニギリを頬張って北穂高岳を後にする。そして最も難関と思われる次の岩場へと向う。


南稜まで来るとテントが数張り。この尾根から来る登山者もいる。夏はこの南稜から登り、北穂沢は積雪時だけの世界だと知った。
この辺りで雨がパラパラ。カッパを着る。岩に白いペンキ印が次々あらわれてわかりやすい。迷わない。
ガスがまいて辺りは何も見えない。ただひたすら岩を歩く。
クサリやスラブ状の岩が次々と・・・。クサリがない所はクラックを足場にする。倒れてきそうな被り気味の大岩は左側を行く。左手に涸沢カールを見下ろす。



雨が大降りになってきた。息つく暇も無く、長いクサリやはしごが次々と。それも垂直に近いはしごや大きいクサリ。左に行ったと思うと急に右にトラバースしていたり。緊張の連続だった。
この辺りが多分、涸沢槍への登りだったのだろう。
覆いかぶさるような岩。杭などに足を掛け攀じ登る。狭いルンゼ上の岩を直登すると小さなピークに出た。
登山者が二人。「ここはどこ?涸沢岳?」「その手前らしいですよ。」
涸沢岳の稜線に出たらしい。もう一上りすると数名の登山者。涸沢岳山頂。「やったー。」
ガスッて何も見えないけど、この五月に来て見覚えがあった。



暗い霧の中にテントが見えはじめて穂高岳山荘到着。
「あー良かった。」雨が強くなって一時はどうなる事かと不安だった。
体が濡れて冷えてしまった。冷え性の私は、着替えてカイロを貼って生き返る。
食事は小屋泊まりの人と同じメニューで予約。ハンバーグ定食。食欲はないけど・・・。
やはりお盆は登山者が多いようだ。居場所に困るほどの人、人。
足のかかとはまだ痛い。シップを変える。
雨は降り続く。その音がテントに大きく響き、眠るどころではないけれど・・・。
雨をしのげればそれでいい。
今朝は、行ける所まで行けばいいと思っていた。穂高岳山荘まで来れるとは思っていなかった。
あの雨の中、あの岩場を自分の足で確実に歩いて来たなんてちょっと信じられない。
大キレットも北穂高岳からの岩稜もどことなく独標から西穂高岳、西穂高岳から奥穂高岳への道とよく似ていた。
丁度五年ほど前初めて見た穂高岳。それは他の山と違って強烈な印象だった。その日からずっと憧れていた。
少しばかり鈴鹿の山を歩いただけの私にとって、穂高岳は全く手の届かない特別な世界だった。憧れが高じて「いつか槍ヶ岳から西穂高岳まで歩きたい。」と思うようになった。
岩稜帯を歩き通せる体力ができるまでは時期尚早。しっかり準備をして強くなってからと自分に言い聞かせていた。
未熟なまま行くことは、山にも人にも迷惑。でもきっといつか自分の足で歩こうと思い続けていた。
御在所岳にせっせと毎週通っているおかげで体力もついた。足も強くなった。
そして、今日その夢が実現した。私は槍ヶ岳から北穂高岳、涸沢岳まで歩いた。自分の足で。一度も泣かなかった。
「自分で自分の事を褒めたいと思う。」ちょっと古いけど有森さんと同じ気持ち。
数年前の西穂高岳、今年の西穂高岳から奥穂高岳への縦走が今日の縦走へとつながった。
これで今年五月、七月、八月と三回に分け、西穂高岳から槍ヶ岳まで縦走できた事になる。
五年前の自分ではとても今日の岩場は歩けなかっただろうし、今の自分だからこそ歩けたという思いを強くする。
相変わらず降り続く雨の音と、大きすぎる感動、その気持の高ぶりなどごちゃごちゃに絡まりあってまったく眠れない。


2005年8月15日 くもり

穂高岳山荘5:15〜涸沢小屋7:15〜涸沢7:30〜本谷橋9:50〜横尾(10:30〜11:00)〜徳沢〜明神〜上高地15:30〜平湯の森(温泉)16:30〜自宅20:00

雨はあがった。でもガスってる。岳沢を降りる予定だったが、天気も悪いし足もすっきりしないので涸沢へ下りる。
右足のかかとと土踏まずをかばうので大腿四等筋まで痛くなった。とても普通に歩けない。あちこちにシップを貼ってゆっくり歩く。
ザイテングラードから見下ろすと、カールの雪はほとんど融けて中程と前穂高岳直下辺りだけ残っている。
涸沢は夏色、緑色に染まっていた。緑に見えるところは全部お花畑。


石畳の登山道脇はナナカマド、ダケカンバの緑が美しい。どの木も二・三メートルの高さ。
春、雪の下に埋もれていた時はどうなっていたんだろう。
自然に身を任せ柔軟に対応し、今、夏の陽を浴び生き生きしている木々に感動する。
ナナカマドには緑の実がついている。秋に真っ赤に染まる実。その一粒一粒もいとおしい。


そしてデブリに埋もれていた谷も一面お花畑。沢にはカールの雪解け水が溢れている。
この緑美しい夏の涸沢からは、誰もあの白い春の涸沢を想像することはできないだろう。
私は、これで春、夏、秋の涸沢、穂高岳を知った。この上ない幸せ。


「穂高岳にはアサギマダラはいなかったよ。まあ標高が三千メートルだし・・・。」と一人その思いに耽っているとなんと横尾でアサギマダラがあの独特のゆっくりした舞い方でひらひらと・・・。
新発見。穂高にもアサギマダラは渡って来るんだ。又新たな感動をもらう。
その後は、痛い足を引きずるように只ひたすら歩いてやっと上高地に辿り着く。


三日連続、毎日八時間以上歩き続けた足はジンジンして棒の様。
だけど心は満たされている。
達成感やら充実感やら新しい出会いの喜びやらでふわふわに膨らんではじけそう。

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