前穂高岳
    3090m
(長野)

MAEHODAKADAKE

2005年10月29日

自宅18:40〜尾西(東海北陸道)郡上〜(せせらぎ街道)〜平湯21:40
タクシー乗り場に駐車する。(車中泊)

2005年10月30日

平湯5:00(予約タクシー)上高地5:15〜岳沢登山口5:45〜岳沢ヒュッテ7:45〜カモシカの立場8:45〜岳沢パノラマ9:35〜紀美子平10:45〜前穂高岳11:15〜紀美子平11:40〜岳沢ヒュッテ13:15〜上高地河童橋14:45〜上高地バスターミナル(平湯行きバス)15:00〜平湯15:15〜自宅19:45


朝予約のTタクシーに乗る。「昨日、下は雨だったけど・・・。」と運転手。山は雪かも?
上高地に着く。バスターミナルに数名。まだ暗いのでヘッドライトを付けて歩き出す。風はなくとても静か。
岳沢登山口まで来ると薄明るくなった。やはり登山道が濡れている。木道や木の階段が滑りやすい。
岳沢の川原が見えて来た。朝もやの中、上高地の梓川と落葉松の黄葉が朝日のスポットライトに浮かぶ。
ふと前方を見上げるとガスの中に、西穂高岳の白い峰が光る。穂高岳は雪だ。なんと神々しく美しい姿だろう。
ヒュッテからなにかコンコンという音が響いてくる。葉を落としたナナカマドやダケカンバが寂しげで晩秋の風情。
伏流している?水のない岳沢を横切ってヒュッテに着く。小屋は冬篭り準備。雨戸などを取り付けている。昨夜の泊まりは五人だったとか。


重太郎新道を登り始めると青空が広がる。雲海の上には薄化粧の西穂高岳。乗鞍岳、御嶽山も遠く美しい。
霜柱や氷片を踏んで初冬の穂高岳を味わう。確か数年前に来た時はなかったのに長い梯子ができていた。梯子段に氷がついているのでそれを避けて登る。さらに以前からある梯子も現れる。
指先がかじかんで冷たい。寒い。温度計を見ると0度。カイロ!フリース手袋の中に握りしめる。だんだん指先の感覚が戻ってきた。
寒さと一気に上がる高度に体がついていけない。少し頭痛。早めにバファリンを飲む。スキーマスクの代わりにバンダナを巻く。耳あてのついた帽子とカッパ上下も着る。
天気は快晴。空気が凛としてきりっとした冬空。背後にくっきり薄化粧の乗鞍岳。手前にベールのような雲が纏わり付いた焼岳も頭をのぞかせた。
カモシカの立場からは目の前にシュガーパウダーを振り掛けたような峰。綺麗。尾根道上にも雪が多くなってきた。今季初めての雪。それも穂高岳の雪。その感触を確かめるように歩く。
黒い岩、蒼い空と白い雪。ここは穂高岳。これ以上何もいらない。今この時、この場所にいられる幸せをかみしめる。そして慎重に確かな一歩を進める。
数年前はこの急登に驚いた。時が過ぎて三回目の今日は余り感じないが、ただ息苦しい。


岳沢パノラマ。
ここからは黄金色の落葉松が美しい上高地、薄化粧の乗鞍岳、御嶽山、西穂高岳が一段と綺麗。新雪の峰と晩秋の上高地を独占する空間。最高の贅沢!
見上げれば奥穂高岳は白い衣装を纏っている。さながら清楚なウエディングドレス・・・。
ここで上から降りてきた人一人。歩くのが仙人のよう。ピッケルを持っている。十月末の穂高岳はピッケルとアイゼンの世界!
昨日涸沢から穂高岳山荘へ。小屋泊まり六人。今朝山荘から奥穂高岳へ。いかにも山男と行った身のこなし。風のように立ち去る。
雪はどんどん多くなる。それもさらさら粉雪。梯子を降りたところでアイゼンをつける。久しぶりなので付け方を忘れている。ここで又、上から一人。紀美子平まで行って戻った人。この人はしっかりアイゼンを付けている。
難関のクサリ場。岩に雪がいっぱい。足の置き場に気をつけて慎重に登る。しっかり岩を見て、アイゼン爪をその岩にかける。


紀美子平着。
目の前の奥穂高岳は真白き峰。初冬の穂高岳。ここだけ次元が違う。人が足を踏み入れてはいけないような神聖な領域。
いよいよ前穂高岳へ。ここからは雪と岩だけの世界。新雪さらさらの粉雪は全くアイゼンが利かない。
御在所岳の新雪だけしか知らない私。さらさらさが違う。こんなきめ細かい雪は歩いた事が無い。「これが穂高の新雪・・・。」と感動しながら恐れながら岩場をより慎重に歩く。
少し高度が上がると北穂高岳、槍ヶ岳が顔を見せてくれた。薄化粧のその美しさにため息が出る。その姿を見る事ができただけでもうそれだけで十分だった。


寒さと高度と新雪に対する緊張感もあって、体が対応できない。息苦しい。胃がムカムカする。頭痛も。
ここは紀美子平から約30分登った岩場。前穂高岳山頂までは多分あと少しだがここでギブアップ。
このさらさら雪に足が嵌まり込みアイゼンが利かないのも不安だし・・・。これ以上体調が悪くなっても困るし、無理はしない。ここを今日の山頂として降りることにする。
降りはさらに慎重にクライムダウンで・・・。数箇所極度の緊張。新雪と岩に四苦八苦しながらやっと紀美子平に降りる。
ここでもう一度前穂高岳を仰ぎ、槍ケ岳から北穂高、奥穂高岳の白い峰を目に焼き付ける。そして穂高岳の神様に深く感謝して前穂高岳に別れを告げた。


ここから難関が待っている。紀美子平下の長いスラブ状のクサリ場だ。先ほどは登り。今度は降り。ここを降るとなると・・・。
慎重に確実にと思いながらクライムダウンで。アイゼンを岩にフラットに置いて降る。先日前尾根で練習した懸垂下降に似ている。怖がらず岩をよく見て足を置く。一瞬のミスも許されない緊張の連続。
岳沢パノラマまで降りるとだんだん雪が少なくなった。気温も上がってきた。ホッと胸を撫で下ろしてアイゼンをはずす。カッパも脱ぐ。ここは秋だった。先ほどまでとは全く違う。
山頂は厳しい冬の穂高岳だったもの。
岳沢ヒュッテから振り返れば青空にナナカマドの赤い実が美しい。その向こうに扇沢、奥明神沢の深くきれ落ちた谷と白い吊り尾根が眩しい。


小屋は秋の柔らかい陽射しに包まれていた。日当たりが良く、風もなく暖か。まるで先ほどの雪の世界が夢の様。とても自分がそこにいたとは信じられない。不思議な感覚。
ほとんどの人がこのヒュッテまでで帰るようだ。ここでやっと軽く食事。パン二個。まだ胃がムカムカしている。
今は伏流水となって涸れたように見えるこの岳沢も一度雨が降ると大水が出るそうだ。沢の乾いた岩や木道を歩いて上高地に戻る。
登山道は赤や黄色の見事な錦繍道。さながらステンドグラス。「これが晩秋の上高地・・・。」としみじみ感動しながら歩く。
河童橋でオカリナの演奏をする人がいた。落葉松とケショウヤナギの黄葉がしっとり落ち着いた雰囲気。ミズナラは明るいオレンジ色。新雪穂高岳とのコントラストが青空に映え深まり行く秋をより美しくしている。


この落葉松の紅葉はバスターミナルから大正池、釜トンネルまで続いた。仰げば落葉松の黄葉で空が明るく山肌はどこまでも黄金色に染まっていた。
「燃える秋」と形容するにふさわしい色。美しい。上高地の秋を最後に彩るのは落葉松だと知った。

今回三回目の岳沢。ダイレクトに前穂高岳に登れるこのルートが好き。(体調も良くないのに勝手なことを言ってるよ。)急登でぐんぐん高度が上がってとても気持良い。林道歩きがなく、すぐ登山道というのも魅力。
ロープウエイも使わず、一日で穂高岳の冬と上高地の秋を満喫できる素晴らしさは他に無いもの。
でもさすがにこの時期のふわふわ雪は難しいし怖かった。アイゼンがしっかり利けばそうでもないのだろうけど・・・。もっと岩や雪を歩いて経験を積んでからでないとこの季節の前穂高岳登頂は困難。行動に余裕も必要だし・・・。(せかせかした我々では・・・。)
幸運にも天候に恵まれ、穂高岳の新雪を歩けたこの体験を次のステップにできたらいいな。
これから穂高岳は長い冬ごもり・・・。


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