西穂高岳
2909m(長野・岐阜)

2005年1月2日 晴れのちくもり  Iさん 夫と3人

自宅1:00〜郡上(せせらぎ街道)〜新穂高温泉P5:00〜ロープウエイ9:15〜ロープウエイ山頂駅(登山届)10:00〜西穂山荘(11:30〜12:30)(テント設営)〜独標(14:00〜14:15)〜西穂山荘14:45

2・3日と天気が良さそうなので出かける。せせらぎ街道は前日の雪で道路が氷と雪で白、辺りの木々も雪をかぶり白。
さながら白のトンネル。白い世界に迷い込んだか、またカナダかどこか外国にいる感じ。
どんどん雪が多くなって道路もガリガリ。気温マイナス10度と道路脇に表示されている。
新穂高温泉の駐車場には雪をかぶった車が数十台。年末から山に入っている人だろう。
バス停から真白の笠ケ岳が目に入る。
ロープウエイに乗ると観光客が、ガラスの内側が凍っているので備え付けのプラスチックのヘラでガリガリ氷をとっていた。
偶然駅で御在所岳でよくお会いする名古屋のご夫婦Kさんと一緒になる。日帰りで小屋まで往復されるそうだ。
山頂駅で登山届を出しアイゼンをつけていざ出発。



シラビソの樹氷は大きく重そうで迫力があった。登山道はしっかりトレースがあり道横の積雪は1m。今年は雪が少ないとか。
しばらくして黒い岩と白い峰の西穂高岳が目に飛び込んできた。綺麗だ。さらに左に双六岳や笠ケ岳。こちらは真白き峰。「わー綺麗。」
年末から山に入った人が「3泊して4日ともダメでした。今日はいいお天気でラッキーですよ。」などと声をかけてくれる。山の天気は変わりやすいし、ましてこの厳冬期には天候が全てといっていい。弾む心を抑えられない。
小屋に着くとテントは数張。風はあまりあたらないようだ。テントを張ってパンで昼食。
少し散歩に出かける。ゴーグルとスキー用のマスク。手足にはしっかりカイロ。尾根に上がるとハイマツが雪に埋もれている。
今年は雪が少なかったので年末に降ったばかりのふわふわ粉雪だった。アイゼンもピッケルも利かない。風がきついので吹き飛ばされないように前かがみで歩く。
独標につくとピラミッドピークは霧の中だった。明日に期待して今日はここまで。
テントに戻ると雪山に慣れているIさんは雪を溶かして水にし、食事を作ってくれた。私は寒さからか頭が痛くてバファリンを飲む。何もできない。
シェラフにカバー、冬用マットを敷く。ダウンのインナーを着たら温かく少し痛みも和らぎウトウトする。ネックウオーマーが吐く息でガリガリになった。テントの内側も凍っている。
夜、月と星が雲ひとつない空にこうこうと輝いていた。自分のこの目で見る初めての厳冬北アルプスの夜空だった。


2005年1月3日 晴れ 

テント7:00〜独標8:30〜西穂高岳(10:00〜10:15)〜ピラミッドピーク11:00〜独標11:30〜西穂山荘(12:00〜12:45)(昼食)〜テント撤収(12:45〜13:45)〜ロープウエイ15:00〜新穂高温泉富貴(15:30〜16:10)〜高山17:30〜自宅22:30



西穂山荘の夜明けはブルーとオレンジに染められた。霞沢岳の左から日の出。雲ひとつない空に真っ赤な朝日が昇った。最高のお天気。
午前7時冬の西穂高岳めざし歩き出す。風が冷たい。前方には紺碧の空に西穂高岳の白い峰が続いている。
笠ケ岳頂上には陽があたって眩しい。焼岳、乗鞍岳、御嶽山の峰にはじっと傍で見守られている感じ。
今この瞬間にこの場所にいられる喜びで胸が熱くなった。手がかじかんでカイロで温めながら行く。
先日御在所岳で見たものより大きい風紋が稜線を埋め尽くしている。これをシュカブラというのだろうか?
ここからデジカメのシャッターがおりない。寒さのため電池の消耗が速いらしい。仕方なく使い捨てカメラを取り出す。


独標からの急な下りがちょっと不安。ここからIさんにザイルで確保してもらう。
雪庇が出来ているのでそれに乗らないように気をつけた。岩にさらさらの雪がついてアイゼンもきまらず一歩一歩確かめるようにただただ慎重に進んだ。
雪のない時に2回来ていてルートはわかるがその経験は今日の雪には通用しなかった。
雪煙が風に舞う。左手に大きく西穂高岳の全景が見えた。ゴーグルを取ると風が顔に刺さるようで痛い。その辺りから頬がヒリヒリしてきた。まだまだ先は程遠い。
突然少し前を行く若者が2mほど滑り落ちた。「あっ。」驚きのあまり心臓が止まりそうだった。彼はそれ以上落ちる事もなく慌てる事もなく何事もなかった様に又歩き出した。そのまま滑落したらと思うと怖かった。
見ていた私達の方が驚いてそれからはそれまで以上に慎重に歩いた。一歩一歩を確実に歩く事の大切さを痛感しながら・・・
どこか見覚えがある傾斜があらわれて西穂高岳山頂だ!
体力も技術も経験もなにもかも未熟なこの私が、厳しい寒さと緊張の連続に耐え、はじめて冬の北アルプスに足跡を記した感激の瞬間だった。
厳冬北アルプス西穂高岳に登頂したこの日この時のこの感動を私は胸に深く刻んで生涯忘れない。生きていて良かった。山が好きな自分で良かった。
山頂からは360度の大展望。笠ケ岳、抜戸岳、弓折岳、双六岳など白い峰々が祝福してくれた。
八ヶ岳、遠く富士山、甲斐駒ケ岳、北岳など南アルプスの峰、黒い槍ヶ岳だけが厳粛だった。そして目の前に奥穂高岳の白い峰。
込み上げて来る熱い思いを堪えきれず涙が止まらなかった。
山よ、こんなすばらしい感動をありがとう。



軟弱な私はマイナス12度の世界に長く居られる体力がないので早々に山頂を後にした。
今度は西穂高岳の岩をいとおしむ様な気持ちで山に感謝しながら歩いた。数箇所クライムダウンの登る姿勢で降りた。
独標下でボードを背負った4人の若者に出会った。この辺りのコルから上高地に滑り降りるとか。
きっと超気持ちいいだろうな。そんな事ができるなんてやはり若い人の特権だよね。うらやましい!
無事小屋に戻って胸を撫で下ろす。極限の寒さと緊張から開放された安堵感と脱力感。放心状態でしばらく何もできなかった。
ただ身も心も感動に包まれたまま「山よ。さよならごきげんよろしゅう又来る時には笑っておくれ・・・」と歌いながら小屋を後にした。
ロープウエイで一宮山の会「じねんじょ」のHさん等に会った。100名山を踏破された女性も見えた。年末に赤岳西壁主稜、今日西穂高岳と休み中、山三昧の方々だった。
2005年の幕開けを西穂高岳で迎えた私。
今年はどんな山と出会い、どんな感動をもらうのだろう。わくわくする。
生きている幸せ、山を歩ける幸せをひしひしと感じた年の初めだった。

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