西穂高岳(独標)
    2909m
(長野・岐阜)


2006年4月9日 小雪のちくもりのち晴れ

自宅3:00〜羽島(名神、東海北陸道)郡上八幡〜(せせらぎ街道)〜新穂高ロープウエイP6:30〜新穂高温泉駅8:30〜(ロープウエイ)〜西穂高口9:30〜西穂山荘(11:40〜12:00)〜独標(13:20〜13:40)〜西穂山荘(14:30〜14:45)〜西穂高口15:45〜P16:05〜新穂高温泉「富貴」17:00〜自宅20:30

新穂高ロープウエイ往復乗車券¥2800
駐車料金¥500
せせらぎ街道通行料¥400×2
新穂高温泉「富貴」¥700

せせらぎ街道峠から所々道路に積雪。新雪と樹氷の山が綺麗。丹生川あたりから道路が真っ白になってきた。全くの冬景色。
雪道を新穂高ロープウエイの駐車場へ。ここで積雪10cm。おそらく小屋までの登山道には30cm以上あるだろう。
二重手袋に厳寒用の上下服。木製わかん、ピッケル、アイゼン、ヘルメット、ハーネスを持つ。完全に冬山装備。
ロープウエイ乗り場で山頂は「風速4m。気温マイナス8度。視界やや良。」と掲示されている。
登山者が次々と来る。30人ほど。この季節にこんなに西穂高岳へ登る人がいると知って驚く。我々は四月は初めてなので・・・。
ロープウエイ始発8:30 
積雪のため第二ロープウエイの始発が遅れる。少し待って西穂高口へ。
四階からの出口で先ほどの山岳会全員がハーネスをつけて準備をしている。新雪が50cmほどあるようだ。我々もワカンをつける。またまた北アルプスのさらさら雪歩き。
四月のこの時期に西穂高岳新雪ラッセルとはなかなか体験できないこと。30人も歩くとしっかりした雪道ができた。
夫はラッセルしたくてしばらく先頭を行く。樹林帯では木に「冬季道」という赤い看板が何箇所かとりつけてある。山岳会の人も、H町のIさんも赤布を木の枝にくくりつけて行く。
西穂山頂や白いピラミッドピーク、黒い独標などが見えてきた。左には槍ヶ岳の黒い尖がり岩も。天気は回復しそうだ。



春の雪なので重いのか遅々として進まない。今日は小屋まで行けたら良いかな?西穂高岳の新雪歩きを楽しもう。アクエリアスを飲みながら進む。
小屋手前は急登になってきた。雪が深くピッケルの高さを越すので決まらないし、ワカンの足元も不安定で滑る。このあたりは新雪50cm以上あると思われる。
小屋到着11:40
喘ぎ喘ぎやっと小屋へ辿り着く。約二時間。もともとの雪が3m50cmほどあるので、小屋は屋根まで埋もれている。目の前に乗鞍岳や霞沢岳が美しい。
そのまま丸山ヘ向う人がいる。岩もハイマツも雪に埋もれているのでのっぺらな峰をガリガリとアイゼンを効かせ歩くようだ。
ここで草もち一個。不要な物を置いてザックを軽くする。わかんをアイゼンに替える。
山岳会の人達は今日は小屋までで後は降りるだけと言っている。元気有り余る夫の行動を朝から見ていたので「上へ行くんですか?気をつけて。」と声をかけてくれる。


小屋出発12:00
カメラザックを背負った若者二人と一緒に。8000mを目指すという彼らは身のこなしが軽い。遅い私に色々助言をくれるのでありがたく教えを請う。
丸山までは風がきつく手がかじかむ。ネックウオーマーで顔を包む。
稜線は新雪さらさら雪を蹴って歩く。雪が飛ばされたところは凍っているのでアイゼンがよく効く。急斜面は「ハ」の字に歩く。
黒い岩の独標が見えてきた。手前にシュカブラや樹氷に続いて張り出した雪庇が目に入る。それに乗れば踏み抜いて上高地まで落ちるだろう。近寄らないように慎重に。
笠ケ岳から双六岳への白い峰がガスに見え隠れする。


独標に近づくと直下は雪と氷と岩。アイゼンをしっかり効かして一歩一歩。
クサリ場で降りる人とすれ違うのが大変だ。前爪を蹴りこんで梯子を上るように直登してやっと辿り着く。「やったー独標だ。」。
独標到着13:20
目の前の吊り尾根から前穂高岳、明神岳は霞んでいる。笠ケ岳が蒼く白い。ピラミッドピークが白く尖って聳える。その右に時々西穂高岳山頂が顔を見せる。
ここから先は何者をも寄せ付けない厳しい世界。人が踏み込んではいけない畏れおおい神の領域。誰も行っていない。とても行けない。
しばしここ独標からの展望に感動する。


「直下の下りが怖いな。」と帰りが心配になってきた。
ハーネスを持ってきたので安全の為着用。慎重に一歩一歩降りる。クライムダウンでピッケルのピックを刺して前爪を効かして。登った時と同じ姿勢で。
その後のやせ尾根も慎重に。登りに抱きかかえた岩は行かず尾根に上がる。ところが上高地側がスパッときれ落ちているのが目に入ると、背中がゾクッとして又元の岩場に戻る。高巻いた感じ。
上高地側の雪庇に極力近づかないように又反対の笠ケ岳側にも絶対落ちないように慎重に歩く。

危険な箇所は通過した。尾根が広くなった。その後はアイゼンを雪面にフラットに置いてさくさく新雪を降る。気持ちいい。「これは西穂高岳の新雪。四月にこんな雪を歩けるなんて・・・。」とじっくり味わう。
時々青空がのぞく。でもすぐにガスがかかって何も見えなくなる。そんな時にはIさんの赤旗が心強い。
下山開始の頃からいつもながらの頭痛に悩まされる。


小屋到着14:30
アイゼンをはずす。小休止。草もち一個。ロープウエイ乗り場まではつぼ足で降りる。帰りも、D山岳会が往復し踏み固めたしっかりしたトレースを使わせてもらう。時々滑り降りる。
天気が回復してきた。笠ケ岳から続く双六岳、槍ヶ岳、南岳、西穂高岳の白い峰が青空にそそり立つ。
一年を通して、こんなに綺麗に眺望がきく日は少ないだろうに。今私は穂高岳の神様から最高に美しい山を見せてもらっているのだと感謝する。
暑いような午後の強い陽射しを受けて山を降る。北アルプスの蒼い空と白い峰をしっかり目に焼き付けて歩こう。こんな幸せな時間はないのだから・・・。


西穂高口ロープウエイのりば、下りの最終は16:45。毎時15分と45分発。乗り場に15:40到着。待ち時間なく乗る。ロープウエイからもう一度北アルプス360度のパノラマを楽しませてもらう。
大キレットや南岳の獅子鼻、奥丸山から槍ケ岳に続く中崎尾根、勿論槍ヶ岳の黒い穂先もくっきりと。
焼岳や乗鞍岳も白く輝いて美しい。笠ケ岳のあちこちの谷には雪崩れた跡が見られる。新雪があって気温が高いので谷は要注意だ。(この時は雪崩遭難のことを全く知らなかった。でもロープウエイの中からだけど素人の目にも雪崩跡がはっきりわかった。)
西穂高岳は小屋までは樹林帯、その後は尾根歩きだから雪崩の心配は余りなかった。風もほとんどなく穏やかだったし・・・。
無事に下山する事が出来ホッと胸を撫で下ろす。ロープウエイ下の新穂高温泉「富貴」でリラックス。
帰り、高山あたりで車中から振り返ると乗鞍岳から前穂高岳、吊り尾根、穂高岳、笠ケ岳までの白い峰が残照にピンクに染まっていた。
それはそれは山の端もくっきりと鮮やかに。まるで山が微笑んで別れを告げているようだった。
モルゲンロートも美しいけど夕日に染まる白い峰も又魅力的なのだとはじめて知った。
朝日に染まるのはモルゲンロート。夕日に染まるのは何て言うのかな?
今日の西穂高岳はまったくの雪山。それも予期せぬ新雪。私にとって又貴重な北アルプス冬山体験だった。
スキーシーズンが終わり、高速は渋滞もなく順調に帰途につく。

この日笠ケ岳などで雪崩遭難事故が相次いだ。「せっかく来たからとか、慣れたところだから。」という気持ちが怖いと新聞は書いている。いつも山を畏れ、かしこまる気持ちを抱いていなければいけないとも言っている。
同じ日に同じ山を仰いだ人がと思うと胸が痛い。
氷上に積もった新雪の危険、雪崩の怖さを改めて思い知らされた日となった。

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